軍刀の拵えを修復をする(その1、白鞘の修復と加工)

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東京練馬区の我が家からはかなり遠方の、山口県に住む方から軍刀の鞘の修復依頼を受けました。
戦争末期に粗製乱造された軍刀は、単なる武器か凶器であって、教育委員会から美術品としての認定は下りず、所有登録証は発行されません。
修復依頼を受けた刀は、れっきとした美術品として登録を受けている刀で、濃州住大矢友信作の日本刀を軍刀に拵え直したものです。 
刃長は二尺一寸と、大刀の標準とされる二尺四寸よりは短いですが、脇差よりは長い。
届いた刀を手に持ってみますと、手頃な長さでバランスも良い刀でした。
鑑賞用ではなく、居合いなどで実用的に使用するには、扱い易い良い刀と感じました。

太平洋戦争中も、実戦で使われたのかも知れません。
刀を振って指揮を執ったり、或いは接近戦での使用もあったのか、現在の状態は、刀身は綺麗に研ぎ直されておりますが、峰の部分には、何ヶ所か深い傷が残っているのが見受けられます。
心なしか刃幅が細く感じられるのは、この刀匠の作風なのか、或いは、戦争で付けられた多くの刃こぼれを研ぎ落とした結果なのかも知れません。

送られてきた状態は、刀身はきちんと手入れされておりましたが、拵えは鞘も割れて無残な有様でした。
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最初は、ハバキと鯉口部分の大きさが合わず、無理に押し込んだので鞘割れしているのかと思ったのですが、
鞘を接着面で断ち割って内部の浚いを見ますと、刀身の反りと、鞘内部の浚い溝が合っていませんでした。
写真で判るように、切っ先近くの刃が内側から鞘を割るような形に食い込まないと、刀身が鞘に納まりません。
即ち、この刀本来の鞘とは異なる別の鞘が、無理やり代用されたものと判りました。
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刀身の反り具合と、鞘内部の浚い溝が合っていないから、刀を鞘に納める時に、切っ先部が内部から鞘を割ってしまっているのだと判ります。

そこで、鞘内部の溝の峰側を、刀身の反り具合に合わせて鑿で浚い直しました。
最大で5ミリほどを削り直す、鞘の残すべき肉厚ギリギリの作業でした。
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ご存知のように、刀身の反り具合は、鍔元から切っ先に至るまで、同じ曲率ではありません。
同じ曲率ならば、刀の形は円弧になってしまいます。
刀の反りは、鍔元近くは比較的真っすぐであって、物打ち付近から急に大きく曲がっているものです。
従って、鞘内部の溝と、刀身の形がピタリと一致しても、鞘に抜き差しできるものではありません。
ですから、割った鞘内部を少しずつ刀身を滑り動かしてみて、どの部分も当たることなく刀身が鞘に抜き差しされるように、少しずつ削ってみながら全体的な調整を行なうことが必要になります。

この調整作業の結果、刀身はピタリと鞘に納まるようになりました。
自分で言うのも何ですが、曽呂利新左衛門の技ですね(笑)。
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その結果、刀を納めたときの鞘内部からの圧力が無くなり、鞘割れも解消しました。
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刀身も刃が鞘内部に触れることなく、ハバキまで、きちんと鯉口に納まるようになりました。
但し、白鞘の状態で、水牛角の鯉口は付属しておりません。
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現物を見るまでは、新規に朴の材で鞘を作り直す作業を想定していたのですが、この状態を見て、現在の鞘の修復で解決できると確信できました。

ゴムで仮止めした鞘に、何度も刀身を抜き差しして確認したうえで、鞘を接着します。
この作業には、強いゴムで大きな圧を掛けて圧着します。
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一緒に写っている鑿は、鞘内部の溝を浚うのに用いた平鑿と丸鑿です。
おっと、タバコまで写っていました。
医者から絶対禁煙を申し渡されているのに、まだ禁煙できていないのがバレてしまいますね。

次は、黒水牛の角(つの)材で、鯉口を作る作業です。

素材となる黒水牛角は、刀剣美術工芸社から通販で仕入れています。 
 http://www16.plala.or.jp/katana-iimura/
品物も確かですし、注文メールへの対応も迅速かつ丁寧で、良い業者さんです。

鯉口を製作する素材は、水牛板といって、一個千円程度のものですが、送料や振込み手数料が、それ以上に掛かってしまいます。 
一個千円のものを取り寄せるのに、送料や振込み手数料が千円以上も掛かるのは泣けてしまうぜ!
だから、ついつい必要の無いものまで、ついでに仕入れてしまうのです。
写真左側の薄くて大きい水牛板が、鯉口の作成用のもので、写真右の厚みがあって小さな水牛板は栗型を作成する為の素材です。
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この水牛板を白鞘の鯉口部分に宛て、鉛筆で外形をトレースしてカットします。
固い材料なので、切り抜くのは大変ですが、難しい作業ではありません。
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次は、白鞘のハバキを受ける穴に合わせてトレーシングペーパーで穴の形をトレースし、水牛板に貼り付けます。 刳り抜く部分を、赤く塗ってあります。
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これに合わせて、鑿や刳り小刀で穴を穿っていくのですが、非常に難度の高い作業です。
削り過ぎればハバキがユルユルになって止りませんし、一ヶ所でもきつければ、ハバキが鯉口に納まりません。
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並行して、お皿のような窪みも作っていきますが、水牛角には柾目の木材のような目があって、この水平方向に削る作業は、良く研ぎ上げた非常に鋭利な刃物で慎重に削らないと、水牛板が持つ目に沿って水牛板が薄く剥がれてしまいます。

95%ほど穴が彫れた段階で、穴を穿つ作業は止めます。
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残り5%は、水牛の鯉口を鞘に取り付けてから、実際に刀のハバキと擦り合せて最終調整します。

今度は、水牛板の裏側です。
最初は真っ平な状態です。
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これに鞘に組み込む窪みを作りますが、かなり面倒で手の掛かる作業です。
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電動トリマーなどがあれば簡単な作業なのでしょうが、何せ鰍工房には高価な電動工具はありません。
すべて、昭和初期頃までのような、鑿、鉋、切り出し小刀などの手道具でコツコツと作業しています。
非効率であっても、趣味のモノ作りとしては、それが楽しいモノ作りの醍醐味、極致とでもと言いましょうか。
自分の手の延長である刃物を、何回も砥石で研ぎ直しながら使うのが楽しくてなりません。
この固い水牛角を加工するのに、いろいろな刃物を何回、何時間かけて研いだか判りますでしょうか?

次に、白鞘の鯉口部分の縁に、水牛角の鯉口を嵌め込む刻みを入れます。
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ここに、水牛角の鯉口を、カパっと嵌め込んで接着します。
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この後、何回も実際の刀身をハバキ部まで差し込んで、ピタッとフィットするまで水牛角の穴を僅かずつ削って調整します。 これが、先に記した鯉口作りの残り5%の微調整作業です。

鞘に刀を納めるときには、僅かな力でスッと納まり、逆に抜刀する時には、親指に力を込めて鯉口を切らないと抜けないような、絶妙な調整を行なうのです。
ま、鰍工房主は、こういった擦り合わせ作業がマニアックなまでに好きなのです。
釣竿の継ぎ口とか、タナゴ竿を収納する竹筒作りとか、小刀や日本刀の鞘作りとか・・・・。
好きでなければ、気が狂いそうに緻密で繊細な擦り合わせ作業を、何時間も続けて出来るもんじゃないですよ。

この刀は軍刀仕様にする為に、皮革製の鞘サックと吊り金具が付属しています。
次は吊り金具の補修と補正です。
曲がっていた吊り環は、万力で挟んで直しました。
また、鞘が本来のものとは違うので、吊り金具の嵌め環の大きさと、鞘の太さが合わずにブカブカだったのを、吊り金具の嵌め環の内側に鹿皮を接着し、環の内径を一回り小さくするとともに、吊り金具の脱着の際に、鞘の表面にキズが付かないような工夫をしておきました。
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吊り金具は、このような形で鞘に取り付けます。
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皮革製の鞘サックに納めて、修復加工作業は完了しました。
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軍刀仕様なので、佩刀する形は、刃が下側に向く太刀拵えの姿となります。
この刀の修理依頼者は、居合いもするということなのですが、私は居合いをされる人は、江戸期の武士の佩刀する形、即ち刃が上に向いた形で刀を腰にするのが普通なのかと思っていました。
この刀を居合いに使うのなら、下から上方向への抜き打ちですね。

本来は、この後、鞘を本漆で塗って仕上げる予定だったのですが、依頼者さんが待ちきれずに、この段階で終わりにして欲しいとのことで、漆塗りは、後日に塗りたくなったら別途に請け負うということになりました。

鰍工房主としましては、水牛角と白鞘の継ぎ目のキズとか、漆で見えなくなる筈の部分が少々気になりますし、吊り金具の嵌め環の大きさは、鞘に漆を塗る前提で、漆を塗った後の鞘の厚みを計算して調整していたので、漆を塗らないとなれば少し緩めになってしまうことなど、いささか気掛かりな面はありますが、全ては皮革製の鞘サックに隠れて見えないから構わないというお客様の考えに従って、これで納品することとなりました。
まぁ、元々がそのような考え方で白木の鞘だったのですから、それでも良いのかと思いますが、漆を塗るという依頼で作業を進めていたので、最初から白鞘のままという話であったなら、そのように仕上げていたのにと、少しばかり残念な思いもありました。

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