壊れかかった包丁の命を蘇らせる

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私は、クリエーティブな創作よりも、道具の修理再生作業の方が好きだし、仕事のやり甲斐を感じます。
それは、モノの命を大切にしたい、これで捨てられてしまうのでは道具が可哀相、ということもありますが、自分自身が定年退職という通告を受けた身であることから、まだまだ若いモノより遥かに高い能力がある(と自分では思っている)のに、”使用期限切れ”にされた、という思いが重なるからでもあります。

という、しょうもない愚痴はさておき、今回は使っておられた方の思いが込められた包丁の修理を依頼されました。
私の家の近所(と言っても、歩いたら40分は掛かるでしょう)に住まわれている方で、鰍工房ブログを見て、修理の依頼に来られました。
アニメなどの声優さんで、ご自分のHPやブログを開設しておられる女性です。
http://chanmiyu.seesaa.net/
ウィキペディアにも登録されていて、出演されたアニメ作品名などが紹介されています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%91%E5%B3%B6%E4%B8%89%E5%B9%B8
私はアニメとかは観ないので判りませんが、お人柄からも、きっと素晴らしい作品だろうな、と感じられました。

持ち込まれた包丁は、若い頃、料理教室に通われた折、母親が買ってくれたという宮文製、名入りの7インチ牛刀です。
この製品が掲載されている宮文のHPです。 
何十年も同じ製品を作り続けているのは凄いです! 超ロングセラーの人気商品なのでしょうね。
http://www.miyabun.com/shopdetail/000000000014/kitchen_knife1_3/page1/brandname/

きちんと、ご自分で研がれた包丁の状態を見れば、一目で大事に使われてきたものと判ります。
こういう、大切に使われてきたことがよく判る道具を見ると、何とか綺麗に直したい、という気持ちになりますね。
しかし、永年の使用で柄の内部に水が浸入し、ナカゴがすっかり錆びて膨張してしまい、柄を押し拡げて大きな隙間を生じていました。 
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ファスニング・ボルトも錆び着いて外せないので、名入れされた部分から柄の木部を切り取ることにしました。
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そして、タガネと大型ニッパーを用いて柄を外してみました。
案の定、ナカゴの4割ほどが、錆び朽ちてしまっています。
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もっと錆が進めば、完全にナカゴが朽ち果ててしまうのですが、有り難いことに、そこまでは行っていません。
錆を落として磨いてみました。荒研ぎして、刃体の形も直してあります。
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柄としての強度は、6割程度にまで落ちてはいますが、まだ、補強の余地がありそうです。
もっと状態が悪ければ、刃体をグラインダーで削ってナカゴを作り、二回りほど小さいペティナイフに作り直すことも視野に入れていたのですが、ナカゴを補強して、元の大きさのまま再生することに修理方針を固めました。

柄の素材には、鰍工房では、硬く水にも強いアイアン・ウッド材を使っています。
これを、柄のサイズに切り出します。
非常に硬い木なので、そこそこの鋸では文字通り刃が立たず、刃毀れしてしまいますので、硬い唐木を材料にする指物用の鋸で切ります。
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柄のサイズに切り出したアイアン・ウッド材です。
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材料を並べて、修理完成後のイメージを固めていきます。
ネームプレートは、元の柄に彫られてあったものを、薄く切り取ってみました。
たぶん、愛着を持っておられた部分かと思い、再利用を考えてみました。
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鰍工房では、刃物の作成や修理には、必ず和紙のスペーサーを入れます。
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高級なカスタム登山ナイフなどには、不織布のスペーサーが入っていますが、通常の市販の刃物には入っていません。
これに、接着剤をたっぷり含ませて、ナカゴと木柄の間に挟み込むことにより、柄の内部に水が浸透することを完全に防ぐことが出来るのです。
スペーサーという名称は、隙間空間(スペース)の補填材というほどの意味です。
この手漉きの和紙は、私の工芸作家仲間で、『めだか舎』という工房を営む、ドイツ系アメリカ人のレイモンド・ルドリッヒさんが漉いた、ぼってりとした厚みのある和紙なので、スペーサーに好適なのです。
本来なら、もっと表に出るべき素材であって、このような縁の下の仕事には勿体ないのですが・・・。
めだか舎さんのHPはこちらです → http://medakasha.com/
手漉き和紙というのは非常に丈夫なもので、非力な私では、手で引きちぎることは全く不可能なほど強靭です。

柄の材を、ざっくりと柄の形に削ってから、圧力を掛けて接着します。
使用する接着剤は、2液を混合して化学的に硬化させ、固まる際に縮むことのないエポキシ系の接着剤を用います。
それにより、スペーサーの効果がより一層発揮されます。
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半日経って接着剤が固まったら、大きめに削ってあった柄材を、本体の形に沿って綺麗に鑿や小刀で削ります。
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ファスニング・ボルトで締める代わりに、2ヶ所を絹糸で巻いて漆で固めます。
そう、和竿を作る技法です。
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次に、ネームプレートをインレイする窪みを作ります。
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ネームプレートと同じサイズの窪みが彫れました。
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ここに接着剤を塗って、ネームプレートを嵌め込みます。
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これで、ほぼ完成ですが、まだ漆の塗装をしていないので、このままでは、手の脂や食材の汚れが柄に染み付く惧れがあります。

そこで、最後の仕上げとして、拭き漆を数回ほど施して完成です。
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拭き漆の作業自体は短時間で終わる簡単な作業ですが、乾燥には温度と湿度の管理をしたムロに入れて、丸一日かかります。 
5回、拭き漆を行なえば、5日を要します。

洋風な牛刀だったのが、すっかり和風の感じになってしまいましたが、元の古い柄から名入れされていた部分を切り取り、新しい柄に嵌め込んだので、この包丁を買って下さったお母様の愛情を忘れることは無いと思います。

刃は、ご自分で上手に研がれていましたが、刃先や顎の研ぎ方が甘く、また全体に強めの蛤刃に研がれていたこと、また、左右均等の両刃に研がれていましたが、右効きの使い手には、右側を大きな角度で、左側は平面に近い角度で刃付けをした方が切れ味が良くなるので、研ぎ直しておきました。
普段は、これまでのように、ご自分で研いで使って頂き、1年に1回ほど、私が刃物研ぎのブースを出している『西荻手しごと市』に持って来られたら、またきちんと刃付け角度を補正して差し上げられると思います。

『西荻手しごと市』は、毎月第4日曜の10時~17時まで開催されます。
鰍工房は、作品の展示販売と、包丁や鋏などの刃物研ぎのブースを出しています。
『西荻手しごと市』のHPはこちら → http://www.nishiogi-teshigoto.com/
刃物研ぎは、1時間で3~4本が限界です。 
モノによっては、1本研ぐのに40分以上も掛かるものもあります。
従って、私の昼食を10分間で済ませても、会場がオープンしている7時間では、最大でも25本が限界です。 
そのような訳で、年に数回は、午前中に研ぎの依頼が沢山たまって、午後遅く見えたお客様の刃物が研げない場合もありますので、刃物研ぎに来られる方は、遅くとも午後2時までに来て頂ければと思います。

会場の井荻会館は、築80年以上のレトロな佇まいが魅力。
出展者も、和紙の「めだか舎」さん、自分達で栽培した綿花を紡いで作品を作るエコロジー集団の「いとてと舎」さん、素晴らしいイラストレーターの「ハラダ エリコ」さん、奥武蔵の正丸峠の麓に木工房がある「ウッドロップ」さん、手捻り陶器の「手前味噌」さん、などなど多士済々の仲間30人ほどが出展しています。 ご夫婦で高遠から来て出展されている「工房 草」さん、”高遠のオバアチャン”こと奥様は、高遠で採取した山菜など珍しい食材を販売して大人気、陶芸作家のご主人は、会場で陶芸体験のワークショップを開いています。
飲み物や、お弁当のショップもあり、出展者や主催者側スタッフの皆さん、とても良い人ばかりなので、この会場が醸し出すほっこりした安らぎの空間みたいなものが、私は大好きです。

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